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〜昨日の今日とは一味二味違うBlog〜

「GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた」の読書メモ

以前から良いと聞いていたGitLab社の組織作り。Handbook は軽くみたことある程度だったので詳しく知れる書籍が出たので読んでみました。 リモートを前提とした組織作り・制度作りはエンジニア組織作りを考える上で非常に参考になりました。

気になったところをメモ。

同期コミュニケーションの重要さ(p.32)

非同期のコミュニケーションを前提としていますが、同期コミュニケーションをないがしろにしているわけではありません。GitLabは同期コミュニケーションがコラボレーションに不可欠であることを理解しており、むしろ従来のオフィスワーク企業よりも強い信念を持って同期コミュニケーションを行っています。

『リモート≒非同期コミュニケーション』となりがちですが同期コミュニケーションの重要性も認識しており、インフォーマルコミュニケーションも意図的に取り入れているとのことです。

リモート組織に対するスタンスの明示(p.61)

一般的に、多くの企業ではオフィスワークの代替や補助としてリモートワークを捉えてますが、この認識こそが効率的なリモートワークが実現できない大きな原因となっています。認識自体を全体から見つめ直し、リモート組織に対するスタンスについて、全員の共通認識となるように誰もが目にできる場所に明示する必要があります。

スタンスを明示することの重要性が記載されてます。なぜリモートワークとするのか、なぜ様々な取組が存在するのかを示すことで社員は理解・納得して振る舞うことができます。

「同意しない、だがコミットする(Disagree and commit)」(p.65)

「同意しない、だがコミットする(Disagree and commit)」という言葉があります。責任者の方針について、他のメンバーは懸念点や反対意見があればはっきりと意見を示す必要があります。責任者も同様に説明責任(accountability)を果たさなければなりません。双方が意見を述べる責任を果たした上で責任者が決定したことであれば、それ以外のメンバーは賛否を問わず全員が決定を尊重してコミットし、全力で支援します。

「反論する義務」という言葉も紹介されています。 そもそも『意見を言える』ということはその領域について専門性を持っているということでありつつ、より良い方向にするために踏み込んだ意見を出すプロフェッショナルであることを示しています。 このような振る舞いは価値ある仕事をする上では不可欠な要素でしょう。

コミュニケーションガイドライン(p.73)

① 前向きな意図を想定する
② 思いやりを持つ
③ インクルーシブな表現を用いる
④ 発言に責任を持つ
Valueの模範を示す
⑥ フィードバックは必要不可欠
⑦ 1 on 1 を侮らない
⑧ ハラスメントポリシー、行動規範、倫理規定を遵守する
⑨ 自分たちがコントロールできることに集中する

コミュニケーションガイドラインで記載されているのは上記の9つ。
発言の責任、フィードバックの重要さなどが個人的には重要だと思いました。

インフォーマルコミュニケーションを設計する(p.80)

GitLabをはじめ世界最先端のリモート組織では、インフォーマルコミュニケーションを非常に重要な人事施策と位置づけ、意図的に設計するようにしています。

インフォーマルコミュニケーションは①従業員のパフォーマンスをあげる、②メンタルヘルスなどの問題を避ける と言われているようです。 孤独感の低減を図りつつ、従業員が互いに尊敬と信頼を交換できるような関係が重要となるでしょう。

リモートワークで発生する問題と対処(p.89)

リモート、ハイブリッドリモートに関わらず以下の問題が発生する可能性があります。

  • 働きすぎる
  • テキストコミュニケーションに対応できない
  • 孤独感を覚える
  • 仕事と生活の境目が曖昧になり疲弊する
  • 新入社員や部署異動したメンバーがチームに馴染めない
  • バーンアウト

これらの問題には『個人の努力ではなく組織が仕組みを用意すること』とあります。 丁寧なオンボーディングやインフォーマルコミュニケーションなどです。

ハイブリッドリモートワークで発生する問題と対処(p.93)

ここが問題です。出社してる人としない人が混在している状態では以下の問題が発生します。

  • 情報へのアクセス格差が生じる
  • キャリアと能力開発の機会に差ができる
  • 劣等感を与えてしまう
  • 罪悪感を与えてしまう
  • 見せしめになるリスク
  • パフォーマンスのプレッシャーが高くなる
  • オフィスを中心としたカルチャーが形成されやすい
  • オフィスの特典を活用できない

情報格差がでてしまうことへの対処としては『意思決定の場をリモートに移す』『議事録を必ず残し、議事録の外で物事を決定しない』『DMや個別チャットではなくオープンなチャンネルで議論する』を徹底することとあります。これは非常に共感できる取組です。昭和のたばこ部屋のようにクローズドな場で物事が決まるような職場はまだまだ多いでしょう。

Valueの優先順位(p.107)

GitLabでは6つのValueがありますが、状況によってはValueがぶつかり合うケースも発生する。 そのためにValueに優先順位(ヒエラルキー)を付けています。

①「成果(Results)」
②「イテレーション(Iteration)」「透明性(Transparency)」
③「コラボレーション(Collaboration)」「ダイバーシティ & インクルージョン、ビロンギング(Diversity, Inclusion & Belonging)」「効率性(Efficiency)」

多くの組織がValueを掲げていますが、優先順位をつけているところは少ないと思います。現場で判断がしやすいようになっているのは素晴らしい。

コラボレーションの行動基準(p.111)

Valueの1つである「コラボレーション(Collaboration)」を実現するための行動基準がいくつか記載されています。気に入ったところをメモ。

●思いやりを持つ
正論で相手を追い詰めるのではなく、相手が理解できるように接しましょう
思いやりがあると感じられる環境では、恐れずに挑戦したり、耳の痛いフィードバックに対しても前向きに受け止められたりするようになります。

思いやり、尊敬、信頼など協働する上で基本的かつ重要な行動ですね。初心忘るなかれ。

●問題は起きた瞬間に対処する
業務や人間関係、給料、設備などに関する問題が発生したときには、可能な限り迅速に周囲に状況を伝えます。

これも重要なことです。共有と対処が遅れると問題が拗れて大きくなります。早めの対処を。

●謝れるほうが強い
間違いに気づいた際には可能な限り早く謝罪します。 公に謝罪することは勇気が必要なことかもしれませんが、謝れることは弱さではなく、強さであると考えられています。

「謝れることは弱さではなく、強さである」こういうことが明文化されているのは素晴らしいです。
なお、ここでの「失敗」は①挑戦したけど失敗したこと、②誰かに対して誠実に対応できなかったことの2つを指しています。

●仕事を基準にして話す
人格についてではなく、具体的な仕事内容について提案します。
「あなたは私の意見を聞かない人である」というのではなく、「デザインに関する私のフィードバックに対して返信がなかった」と伝えましょう。
またフィードバックを送る際には、相手を非難するためではなく、パフォーマンスを向上させたいという目的を最初にしっかりと伝えるようにしましょう。

これも大事な姿勢です。同僚を人格を非難するのではなく仕事での行動や成果についてのフィードバックということ両者で前提をあわせておくことが重要です。

この他にも大事な行動基準が記載されてます。

●エゴを捨てる
●誰も失敗させない
●コラボレーションはコンセンサスではない

成果を出すための行動基準(p.117)

GitLabでは成果(Results)をValueの最上位として重要視しています。GitLabでは成果を「コミットした責任を果たすこと」と明言しています。

成果(Results)を決めるのは顧客やユーザー、チーム、投資家などです。つまりステークホルダーに影響を与えられたかを客観的に計測することが重要と記載されています。 最も重要なValueの位置づけとして以下ような行動基準が示されています。

● 時間ではなく成果を測定する
ドッグフーディング
全体最適を志向する
● エージェンシーを与える
● 粘り強く取り組む
● 不確実性を受け入れる
● 同意しない、コミットする、同意しない

私は「同意しない、コミットする、同意しない」が非常に気に入ってます。

効率性(Efficiency)の行動基準(p.123)

効率性を高めるための行動基準です。取捨選択を正しく行うという意図が見て取れます。

● 健全な制約に絞る
● 正しい範囲に向けた効率性を追求する
● 他人の時間を尊重する
● 周知は短く
● マネージャー・オブ・ワン

ダイバーシティ & インクルージョン、ビロンギング(Diversity, Inclusion & Belonging)の行動基準(p.129)

多様性・包括性を持ちつつ、自分の居場所はここである(Belonging)と言える組織であるための行動基準です。政治や宗教、ニューロダイバーシティなど考慮すべきことが記載されています。

● 非同期コミュニケーションを優先する
● 不快な考えや会話を受け入れる
● マイクロアグレッション(小さな攻撃性)の影響を理解する
● 家族を歓迎する
● カルチャーマッチではなくバリューマッチを選ぶ
● 職場における宗教と政治
● 型破りを楽しむ
● 家族や友人が第一、仕事がその次

透明性の行動基準(p.149)

個人的には大事にしたValueです。透明性が確保されていないと不信感がでてきます。どこで何が議論されてそういう結論になったのか・・・?それを公開しない、またはオープンな場で議論しない理由は何・・・?という疑義を生んでしまいます。

● デフォルトは公開設定
● 本音で話す / 考えが変わったらはっきり言う
● 建設的に問題を表面化する
● 透明性はコストがかかってもやり続けることで最も価値を発揮する
● 信頼できる唯一の情報源
● 見つけやすさ
● 結論だけでなく理由も説明する

Valueをどうやって強化するのか?(p.154)

Valueは定義するだけだと役に立ちません。浸透させメンバーが納得感をもってこそ価値を発揮するものだと思います。この章ではValueを強化する施策が記載されています。

  • 採用基準に用いる、オファーレターへの記載、オンボーディングなどの採用過程で強く説明する
  • 昇格、360°評価、報酬・ボーナスの査定などの評価に用いる
  • 経営層が模範となる振る舞いを体現する、経営メンバーの講習を定期的に実施する
  • 更新を続ける

コミュニケーションのルール(p.161)

コミュニケーションのルールがいくつか記載されています。気になるところをメモ。

ローコンテクストコミュニケーション(p.169)

相手に文脈や考え方を求めないコミュニケーションのことです。日本だと「行間を読む」のような言い方がありますがそれの逆です。行間を読まなくてもよい文章を心掛けます。

  • 短い文章を用いる
  • 曖昧な言葉を使わない
  • So What?」を確認する
  • 副詞を避ける(「ユーザーを増やす」ではなく「サブスク会員を300人にする」と書く)
  • 略語と専門用語を避ける
  • 主語・動詞・目的語を明確にする

オンラインミーティングのガイドライン(p.175)

「同じテーマに関して非同期コミュニケーションが3度往復するような場合には、同期ミーティングに移行する」が推奨されているとのこと。
話が噛み合わないままテキストチャットを続けるより、一回時間とって話をしようというルールです。これは誰しも経験があるかと思いますがルールとして明文化されているので「3往復したから話そう」と言えるのがいいですね。

同期ミーティングで非同期コミュニケーションを加速させる(p.177)

ミーティングをする際のルールです。よくまとまっていてすぐに真似できるものばかりですね。

  • カレンダーの空いている時間に設定をする
  • 参加可否をなるべく早く伝える
  • すべての会議にはアジェンダが添付されている必要がある
  • プレゼンテーション(説明)をしたいのであれば録画して先に共有しておく
  • 質問を前もって記載しておく
  • 議事録を作成し、会議の最後に重要なポイントや次のアクションが記載されていることを確認する
  • デリケートな話題については記録を止めるよう求めることができる

コンディショニングを実現する(p.277)

リモートワークでは意図せず心身のバランスを崩しやすい特徴があります。

休暇を取らないことは組織の弱点(p.281)

休みを取らない人が存在することは2つの理由で組織における脆弱性がる状態だとみなしています。
① メンバーが疲弊し、いつか限界を迎えてしまう
② 休みを取らない人の業務が単一障害点になってしまう

知的謙虚さ(p.282)

単一障害点となるような(属人性を高めるような)振る舞いは「知的謙虚さに欠けている」とみなされます。
GitLabのようなグローバル企業では、休暇を取らないことや長時間労働を自慢するようなことはやめるように言われます。

なんとなく良くない振る舞いだなと普段から思っていたことが「知的謙虚さに欠ける」と言語化されていました。まさにその通りで自慢するようなものでは決してありません。

まとめ

気になるところをメモしていきました。
紹介した章以外にも素晴らしい記述がたくさんありましたので気になる方は読んでみてはいかがでしょうか。