2018 FIFA ワールドカップが開幕しました。
戦術やプレーモデルが高度化し、個人においても高い戦術理解度が求められる昨今、代表チームにおいても戦術をしっかり仕込んだチームが優位性を持つようになってきました。
(準決勝でドイツがブラジルに7-1で勝ったのは戦術レベルでの優位性が大きかったと言われています)
それから4年を経て、さらなる戦術の高度化を具現化したチームが多くなると言われているのが2018 ロシア大会です。
そんなワールドカップを観つつ、サッカーの戦術トレンドとソフトウェア開発チームのマネジメントについて考えてみます。
サッカーの戦術トレンド「ポジショナルプレー」
モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー
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「ポジショナルプレー」とは、プレイヤーはあらかじめ決まったポジションのタスクをこなすのではく、局面においてより適切なポジションとタスクを流動的に遂行するという考え方です。
チェスでは古くから使われてた概念のようです。
サッカーの世界ではかのヨハン・クライフが世界を席巻した「トータルフットボール」をより進化させたものと言えるでしょう。
「ポジショナルプレー」における主要な原則
ポジショナルプレーを考えるにあたりいくつか重要な概念がありますが、この場では以下に注目します。
- 3つの優位性(数的優位性、位置的優位性、質的優位性)
- プレイヤーのタスクの変化
- シームレスな攻守の切り替え
- コーチとしてのマネジメント
3つの優位性
数的優位性
サッカー | ボールの周囲に多くの人数を配置すること |
---|---|
ソフトウェア開発 | 開発に必要なチームを構築すること / 重要な局面にリソースを集中させること |
ソフトウェア開発では十分な人数を揃えること、限られたリソースを必要な局面に集中させることにあたります。
基本的な考えであり、3つの中では重要度が低いものです。これを実施することに意味はありますがこれだけでは圧倒的に優位性は作り出せません。
位置的優位性
サッカー | 相手プレイヤーの隙間/死角/逆サイドなど戦略的に相手チームが嫌がる位置に人を配置すること |
---|---|
ソフトウェア開発 | ソフトウェアの各レイヤーに適切に人を配置すること |
ソフトウェア開発では開発工程、アーキテクチャ的なレイヤー、サブシステムなど様々な分割ができます。
数的優位性として人を集めてワーワーするだけではなく、
リスクのある箇所に適切に人を配置することで強固なチームとなり、より良いシステムとなることでしょう。
質的優位性
サッカー | 選手のクオリティにより目的達成(得点/守備)の確率を上げること |
---|---|
ソフトウェア開発 | 技術レベルの高いメンバーによる高品質の実現 |
最後に質的優位性です。
数的優位性、位置的優位性を実現した上で、仕事の成功率をより高めるための考え方です。
ソフトウェア開発では、質の違いを生み出せる優秀なエンジニアにどこで戦ってもらうのか、という考え方となると思います。
プレイヤーのタスクの変化
ポジショナルプレーの概念においては、決まった固定的なポジションのタスクのみをこなすことはありません。
目的(勝利)を達成するために、その局面において適切なポジションに移動し適切なプレーを選択し続けなければいけません。
ソフトウェア開発では、アジャイル開発手法において「クロスファンクショナルチーム」(マルチファンクショナルチームとも言います)が提言されています。
センターフォワードが守備をしなくてもよかった時代は終わり、味方と連動して守備を行うことが必須なりました。ディフェンスの選手も足元のテクニックやパス技術が要求される時代です。(最近はゴールキーパーにも要求されます)
ソフトウェア開発でも、仕様を考える/プログラムを書く/テストをする、という役割分担ではなくその局面で適切な働きをすることで目的(ビジネスの成功)を目指す必要があるでしょう。
(エンジニアがマーケティングをサポートしたり、営業担当者がデータ分析を行うなど)
もちろんサッカーでもソフトウェア開発でも得手不得手があるのでチームとしてどうなっているべきかに注目すべきです。
シームレスな攻守の切り替え
サッカーでは攻めと守りの区切りがありません。
統計上、ボールを奪ってからの速攻で多くのゴールが達成されており、攻撃と守備の切り替えが重要であることがわかります。
勝利のためには攻撃が重要ですが、同時に失点のリスクを減らすことも求められます。
攻撃的な戦略とリスク低減は一見相反している概念ですが、バルセロナの6秒ルール(ボールを失ってから6秒間激しくボールを奪い返しにかかる)、最近話題の偽サイドバックなどが実装方法として有名です。
いずれも攻撃の戦略が守備の戦略(リスク低減)に繋がっています。
ソフトウェア開発では「DevOps」が該当する概念でしょうか。
「開発」と「保守運用」を分ける/分けないに是非はありますが、流動的なビジネス環境において分業化・固定化することによるリスクは少なからずありそうです。
コーチとしてのマネジメント
最後にコーチとしてチームをどうマネジメントするのか、を考えてみます。
ポジショナルプレーの先駆者であるグアルディオラは、
「前線のアタッカーに良い(クリーンな)ボールを届ける戦術をチームに与えること」
をコーチの重要な仕事の1つとしています。
得点の確率を高めるために3つの優位性、とりわけ質的優位性を考えてクオリティの高いアタッカーに良い仕事をさせる。そこから逆算してチームとしてどう動くべきかを仕込むのです。
"仕込む"ことが重要な仕事です。ただ言葉で説明する、試合中に叫ぶだけでは選手が実践できるとは思えません。
狙い通りのプレーができるように、試合の映像を見せ、狙い通りのプレーの再現性を高める練習メニューを考案し実践します。
ソフトウェア開発におけるマネージャーはどう考えるべきでしょうか。
- チーム・組織の目標とは何か
- 目標を達成するための戦略は何か
- どのような動きをチームに要求するか(再現させたい動きは何か)
上記を考えるために、
インセプションデッキ、OKR、ふりかえりなどのフレームワークを活用してチームに良い戦略を与えるのがマネージャーの仕事と言えるでしょう。