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「通訳日記 - ザックジャパン1397日の記録」

「通訳日記 - ザックジャパン1397日の記録」を読みました。
2010年から4年間サッカー日本代表監督の通訳を務めた矢野大輔さんの日記をまとめたものです。
通訳という立場から現場を見つめた矢野さんを通して、ザッケローニ監督の考え、日本代表選手の言葉が詰まっており、サッカーファンとして非常に楽しめる本でした。
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通訳日記 ザックジャパン1397日の記録 (Sports Graphic Number PLUS)

通訳日記 ザックジャパン1397日の記録 (Sports Graphic Number PLUS)

ザックジャパンの4年間

「大輔、まだイタリアにいるのか?日本にいる準備はできたか?たくさんの仕事が待ってるぞ」
4年間はこんなザッケローニ監督から電話から始まります。
著者の矢野大輔さんは15歳でプロを目指しイタリア/トリノに渡ったそうで、そこからプロを諦め紆余曲折ありデルピエロなどアスリートをマネジメントする会社に勤め、たまたまトリノに移籍した大黒将志選手の通訳となります。その時のトリノの監督がザッケローニでした。すごい経歴です。

日本代表チーム通訳として過ごす日々は、人生の宝物になる。そう確信していたからこそ、日記をつけることにした。

このような思いから日記が始まり、ブラジルワールドカップで敗退する日までが綴られています。

監督として選手やスタッフへの接し方、考えの伝え方をはじめ、3-4-3へのチャレンジやデフェンスのやり方、攻撃のコンセプトなど随所に戦略的な話も満載です。

印象に残った言葉や出来事を記します。(以下ネタバレ注意です)

監督業への情熱、哲学

情熱がなければやっていけない。興味が湧かないことを続けていても仕方がない。そういう意味で、監督という仕事はやめられない。特にこの日本代表監督という仕事は、すごく魅力的だ。(P24)

ザッケローニ監督が日本での仕事を非常に気に入っていたことが各所に出てきます。
「仕事」に誇りを持つこと。そこに情熱を注ぐからこそ楽しい仕事になるのでしょう。
僕自身も自分の仕事をこのような感覚でやっています。比較するには重みが違いすぎますが…(笑)

リスクを恐れないこと

大輔、覚えていろ。人生何でもそうだ。何かをしたいと思ったら、リスクを冒さなければならない。リスクを恐れることが一番よくないんだ。(P32)

矢野さんに移動中に伝えた言葉です。沁みます。

挑戦、意欲

いいか大輔。今まで誰もやってないことをやろう。(P33)

食事中の雑談の中の言葉。サッカーの世界では"やりがい"が大事であり、常に新しいことに挑戦する志が重要とのこと。

成長、ミスからの修正

成長するにはミスから学ばなければならない。我々は今後、カタールよりもっと強い相手と戦っていく。だから修正していこう。(P61)

アジアカップでのカタール戦後の選手への言葉。劇的勝利の後も内容はしっかり反省し、より成長を促す。

ディテールにこだわる姿勢

ディテールにこだわれ。違いはそこに生まれる。 (P63)

ザッケローニ監督はよくこのようなことを言ってたそうです。
これはどんな仕事でも言えるでしょう。どこまで追求できるかが結果として大きな違いになります。

全力で取り組む

勝っている時、結果が出ている時は、その喜びに浸るべきだ。いつも勝てるわけじゃない。だけど勝っている時に調子にのってはいけない。しゃべりすぎてもいけない。逆にに負けている時、結果がついてこない時は、勝っている時と同様、しゃべりすぎてはいけない。
でも自信は持ち続ける。大事なのは、結果を出すために自分が最善を尽くしているかということ。自分が全力で仕事に取り組めていれば慌てなくてもいいし、後ろめたさも感じなくていい。全力でやっていたら大丈夫。(P72)

結果に左右されず、自信を持つためには全力で取り組んできたかどうか。
上の「ディテールにこだわれ」と同じでその時その時で出来ることをちゃんとやることが価値となる。

選手と監督の信頼、ベテランの振る舞い

(遠藤選手の言葉)
これからW杯予選が始まるけど、これまでの2回の経験から、日本は特ににホームで試合開始からイケイケになりすぎる。俺からも皆に言うけど、そこを抑えるようにしないと、90分戦えない。チームも若いし、スタジアムの雰囲気に押されがちになる。勢いだけではダメだと思う。 (P98)

いよいよワールドカップ予選が始まる、という時の遠藤選手からの進言です。経験のある選手がしっかりとチームのことを考え、監督に伝える。
「チーム」とはこういったことがあるかないかで大きく違ってくるでしょう。

キャプテン長谷部

ハセはこのチームにとって大切すぎるんだ。ピッチの中でもそうだし、外でもそう。ボランチで攻撃と守備をハセほど高いレベルでこなせる選手はいない。いち選手としても、一人の人間としてもハセを高く評価している。 (P348)

ザッケローニ監督とキャプテンである長谷部選手は頻繁にミーティングを行っています。
時には選手側である長谷部選手から、時にはザッケローニ監督からチーム全体のことをキャプテンに聞きます。

テレビでは伝わない長谷部選手のキャプテンシーがが随所で記載されています。
チームの雰囲気に違和感があれば選手間でミーティングをしたり、違和感を即時に監督に伝えたり、途中交代し不満そうな選手を気遣ったり。
キャプテン、リーダーにふさわしい選手です。

原口元気への言葉

浦和ではボールが逆サイドにある時もワイドに張っているが、代表では違う。オフザボールの動きも覚えなければならない。
(中略)今後もプレーを見続ける。だからそれらの課題を修正して成長してほしい。(P102)

初招集された原口元気への言葉です。
他の選手にも同様の言葉を掛けていたようです。いつも見ているよ、期待しているぞ、と伝えています。

チームとして大事なこと

皆には大きく3つの目標を持ってもらいたい。1つ目は結果。これは今後も良い雰囲気を保つために必要なもの。2つ目は成長。3つ目はチームとしての団結力。2と3はこれからも結果を出し続けるために必要なもの。(P111)

強いチームになるための大事なこと。

負けてる時にやるべきこと

大輔、こんなもんだ。負けている時、周りは"すべて悪い"と思い込んでしまう。しかし、監督はそういった風潮に流されてはいけない。
結果だけを見るのではなく、ピッチ上で何が起こったのか、なぜ起こったのかを冷静に分析する必要がある。でなければ、そこから抜け出せない。 (P289)

ワールドカップまで1年を切った2013年10月の東欧遠征でセルビアベラルーシに続けて負けた後の言葉。
監督は周りの雰囲気に流されてはいけない。負けている時でもしっかりと事象と原因を考えなければいけない。そうじゃないと改善はないという言葉です。これも沁みます。

コンセプトと選手選考

ポジティブに我々のサッカーを貫き通すことだけに集中してやっていけなければならない。怯んだ瞬間、負けが決まる。だからそのようなメッセージは発信しない。(P321)

ワールドカップに連れて行く23人を選んでいるスタッフ、コーチ達への言葉です。
自分達のやり方に強い自信を持って大会に望む必要がある。相手のサッカーに合わせた対策はもちろん必要だけど、そのような選手を選ぶことはコンセプトがブレるのでやってはならない、という考えです。
こういうことがしっかり言えることが大事ですね。

ワールドカップ敗退、4年間の終わり

ご存知の通り、日本代表はグループリーグで1勝もしないまま敗退します。

ザックジャパンの4年間はいちサッカーファンとしてとても楽しいものでした。
2010年南アフリカ大会から日本サッカーのレベルを1段上げ、本当に強いチームを目指したザッケローニ監督と日本サッカー協会の方針は共感できるものでしたし、4年間の試合を通してそれは伝わってきて応援しがいがありました。

ただ結果は出ませんでした。
でもこの4年間は無駄なものだったのでしょうか。

本書の最終章「ザックジャパン最後の1日」にその答えがあります。
ザッケローニ監督の人柄、日本代表選手の言葉に触れ、より一層サッカーが好きになりました。

「大輔、晴れている日は上を向いて歩くんだ」(P400)

ブラジルを去る日の散歩の中、ザッケローニ監督から矢野大輔さんへの最後の言葉です。